矯正歯科コラム

2020.05.13

なぜ矯正治療で歯が動くか?

前回は、矯正治療でなぜ歯が動くか、生体改造のメカニズムの観点から説明しました。今回はどうやって目的にかなった方法で歯牙移動をさせるか、装置の特性から説明したいと思います。

矯正治療では、上下の歯をきちんと咬合させるため、歯槽骨に埋まっている部分まで含めた歯の全体を動かします。動かすための力は歯の見えている部分にしかかけられない反面、歯の重心の位置は歯根の奥の方にあり、ほとんどの状況でかけた力に対して力学的にいうモーメント(回転)が発生します。そのため、歯の見えている部分に、ただ押したり引いたりする力をかけるだけでは、左の図のように歯は傾くようにしか動きません。

現在主流となっている矯正装置は、ワイヤーの力を歯の表面に装着したブラケットという装置を介して歯に伝えるものです。この装置は、歯根まで含めた歯の全体をコントロールできるように作られています。

例として、下図にある右端の歯を左に動かすことを考えてみましょう。
歯に左方向の力をかけた場合、一旦は傾斜しますが、ワイヤーが傾斜に合わせて変形し、立て直す力がかかります。その結果、あたかも歯がワイヤーの上を滑るように全体が平行移動するような動きができるのです。

ブラケットには歯の表面に対して垂直な四角い溝がついており、溝とぴったりとかたちの合うワイヤーを入れることでねじれの力を発生させ、歯根を動かす力とすることもできます。これを応用すれば、傾きを調整しながら前歯を後方に移動させることが可能になります。

こうした歯の移動は取り外式の装置では難しいものです。治療の質を優先するため当院では原則すべての症例でブラケットの装置を使用して治療にあたっています。